虚構に生きる

高二中二小二のあの頃の気持ちに戻ろうというコンセプトなのです。

父の夢を見るようになった

季節の変わり目、寒暖差に億劫とした気持ちを抱きながら毎朝ふと思う。

父との思い出を振り返ることが多くなった。

 

キャンプの時に二人でバドミントンをした。小学生の時分ではとても勝てなかった。

海水浴で溺れかけたときに助けてくれたのは父だった。はぐれた兄を探そうとして深いところまで進んで溺れかけた私を救ってくれたのは父だった。

仲は決して良くない。けれども悪いわけでもない。ただ関係が築けなかっただけなのだ。

 

僕はもう、そういった年齢で、

父もそういう年齢なのだ。

 

んふふって

んふふって、キミが笑うの。

何だか女の子みたいでお酒に酔った私には貴方がとても可愛く見える。

電気ブランを飲みながら明日はどこに行こうかって、目が覚めたときには忘れるくせに曖昧な約束をするんだ。

しらふでは絶対に言わないような言葉も、アルコールが入ると好きだって可愛いよって頬を撫ぜながら髪を弄びながら流し目で囁くの。

いつも言葉足らずだけどさ、こんな明日には忘れる瞬間瞬間が私達には大切なのかもしれないね。

 

 

 

 

人を尊敬できるのは良いことだ

良いね、と先生は言った。唐突な言葉に聞き取れたのについ聞き返してしまった。

「なんですって?先生」

「いやだってキミは父親を尊敬しているんだろう」

ついさっきまでの話題は家族についての話であった。放課後の教室ですぐに家に帰るのも時間を持て余すので、たまには高校生らしく時間の浪費に勤しんでいたのだ。

はあ、と気のない返事をすると先生はこう続けた。

「きっと君らの年代では父親のことを嫌いだと思っているだろう。臭いだとか、家ではいつでも威張っているだとか、酒に酔ってよく分からないことを言うだとか」

例に挙げられたものは全て違っていた。父親は体臭も普通だし下戸だ。それに恐らく謙虚という部類に入る人間だ。

ただ一つ、父親を嫌っているのは当たっていた。

「それでもキミの口調からは父親を尊敬していることが感じられたよ。キミは認めないだろうけどね」

「そうですか」

この先生はよく分からないことを度々言うのだ。人の家庭環境もよく知らないクセに分かりきったかのような事をのたまう。斜に構えていた僕は、先生の次の言葉にドキリとしてしまった。

「きっとキミは私の言葉に対して煩いだとか、よく知らないクセと思っているだろう。人の心を見透かしたかのような発言は嫌われる。それは相手を子どもだと、格下だと無意識に自覚させるからだ。私が例示したことも、当たっていないだとか、勝手なことをほざいているだとか、そんな感情が全面に出て私が伝えたいことなんて感じ取る暇がないんだ」

それでもね、と続ける。

「人を素直に尊敬できるのはね、とても幸せなことなんだよ」

夕焼けに照らされた先生の横顔が、妙に心に残っている。

夜のリズム

タン、タン、タン

いや、もしかしたらパン、パン、パンかもしれない

一定のリズムが私の後方で鳴っている

肌と肌を打ち付けてなる音は、拍手以外といったらコレだろう

粘度の高い水が音を立てる

ああ、この屈服感がたまらない。否応無しに求められるのはクセになる

それなのにいつも私を満足させることなく果ててしまうのだ

そうしたらマゾがサドに変わる瞬間なのか、満たされない不満をたっぷりの庇護欲で彼ごと包んであげるのだ

酔いにかまけたこの行為をまどろみが流してくれれば有り難い

今の私よりもあの頃の彼は大人だった

むかし付き合った男がいる。

思春期だった私にとっては二十と数年生きた彼はひどく大人に見えたのだ。

彼に何度か告白をしてやっとOKを貰った。

彼は何度もこう言った。

「自分は君が思っているような立派な大人じゃない。」

それでも好きなものは好きなの。

「君は年上に憧れているだけだよ」

でも好きなの。

 「君は恋に恋をしているだけだ」

 

恋人と別れたばかりの彼に何度も言い寄って、私ならずっと一緒にいてあげる、私なら貴方の為に尽くしてあげるとバツの悪そうな顔に向かって何度も愛らしき言葉を送った。

次の恋人ができるまでのお試しで良いと伝えて、彼はやっと折れたのだ。

でもすぐに別れてしまって。

彼が私に慣れるにつれて見せる表情や仕草が、私が思い描いていた大人とはかけ離れていて、何だか彼のことが今度はひどく子供じみて見えたのだ。

私はその時折見える子供らしさに深く失望をして、一度そう見えてしまうともうダメで、かじかんだ手でコーヒーカップを両手で持って飲む仕草や、はたまたいただきますの挨拶にさえ、ああ、あの時の気持ちで表現するならガキっぽいと思った。

 

 

社会経験を数年積んだ私はあの頃の彼と同じような局面を迎えていた。

あの時の私と同じような頃合いの男の子。彼は化粧で厚く着飾った顔を見て綺麗だと言う。何だか面白い。男子達は二十歳を越えたらババアだと言っていたのに、この子は好意を伝えてくる。

彼はやはり歳の割には大人であったように思う。

彼の言う通りわたしは大人に憧れていたのだ。

ハグ

抱きしめられたい。壊れるぐらい抱きしめられたい。息ができないぐらい。肋骨が肺を押し込んで中の空気を出すぐらい。いっその事、腕や肋骨を折るぐらいに強く抱き締めて欲しい。

潰れるぐらい求められたい。そのぐらい強く求められたい。一緒になって混ざっちゃうぐらいに強く。

精一杯抵抗するから、問答無用で1ミリも腕が動かせないぐらいに強く抱き締めて。


でも背骨を折るのは嫌。

その程度には、優しくしてね。

ポリエステルとお尻

早く脱がせて欲しい。

安物のポリエステルのパンツが少し肥えた尻に食い込んで痒い。

 

下着越しのこそばゆい愛部をするぐらいなら、その手をお尻まで回して肌を掻いて欲しい。

痒みをとるべく尻をベッドにおしつける私のささやかな抵抗は、どうやら男の劣情を誘ってしまったらしく、愛部が激しくなる。

そんな事をするなら下着を脱がせるか、尻をかくか、もしくはその愛部してる指を私のなかに入れてきちんと気持ちよくしてくれ。

もう少し乳首を吸わせてやればよかった。

三度の飯よりセックスが好きそうなこの男は、私の乳首を赤ん坊のように舐りながら、ねぇ気持ちいい、なんて気持ち悪い事を聞いてくる。


喘いでみたり、悶てみたり、はたまた流し目を使ってさも感じているていで男の欲情を誘う。愛してくれるから。そうすると、愛してくれる。

愛だ恋だとのたまう程には若くなく、婚期が、金だと嘆かない程には若い。それでも、そういった仕草をするとこの男は一層興奮して、胸を貪って、硬くいきり立った醜いソレを私のアソコに押しあてながら、早く入れて欲しいかと、やっぱり気持ち悪いことをにへら笑いしながら聞いてくる。そういった一連のルーチンが、私のこの年齢での愛という形である。


うん、で挿入すれば事は早いが、じゃあどうして欲しいか言ってごらんと続いた日には、もし私にアンタの醜いソレが付いていたら確実に萎えているだろう。

とまれ、とまれ私は、時々萎えながら、乾いたコンドームを破かせながら、愛を語ったりした。


些細な事で喧嘩をして、なんだか感傷的になって泣きながら謝っている顔を眺めてると、そんなブサイクな造形だったのかと笑いそうになるを堪えるので精一杯になる。幸いなことに肩の震えや、鼻から漏れ出た息がシリアスなシーンにマッチするらしい。私の思いが伝わることはなかった。そんな感傷に浸ってないでローションを潤沢に使ってコンドームを破かずにセックスしてくれ。


そんな所謂愛情表現を何十回か繰り返した時に生理が遅れて、まるで女同士で話すような気軽さでポロと零したら何だか面白いぐらいに顔色が悪くなって、二言三言当たり障りのない会話をした後は逃げるようにして帰っていった。

それから本当に逃げた。

あんなクソみたいな些細な事でイラついて喧嘩して、大事にするからとか泣きながら抱きしめてきた男が着信拒否をしてダンマリを決め込んでいる。


もう少し乳首を吸わせてやればよかった。

もしかするともう少し乳首を吸わせたら彼は赤ちゃんでなくなったかもしれない。


私はしばらくしたら別の赤ん坊とルーチンをこなすだろう。今度は少し婚期を意識しながら。

聡と賢治のお下がり

聡と賢治のお下がりだ。


おさがり癖はいつものことだ。

兄が一度も着なかったお古。着古したお古。物心ついた時から他人のおこぼれを貰い続けてきた。

お昼ごはんのミルメーク付きの牛乳とか、キャンプの飯盒の残りとか、修学旅行のペアとか。

下の下で平々凡々と生きてきた。


でもまあ、このお古は結構良い。

猫の交尾

にゃーにゃー猫が鳴いている。猫の交尾。

いや縄張り争いか。わからない。

喧嘩する雄猫達?

違う、たぶん、セイキを出し入れして、あえいで、いるのだ。

少し面白いのは、二匹が同時に、同じようなタイミングで唸るんだ。

にゃー、にゃーって。

猫のペニスには、トゲトゲがついていて、痛いらしい。そんな話を昔聞いた。

痛いのはてっきり、ひっかき回される雌だけと思っていたが雄猫も痛いのか、もしくは快感であえぐのか。

ピタリと二匹の音が止む。

もう鳴かない。


雨音。

ぱたぱたと反射する音。

発泡酒を飲んで、少しまどろんで、猫の交尾を聞く。

ヒト様は金があれば抱ける。

猫はどうだか。

金がなくても抱けるなら猫になる。


口の中に残った発泡酒。

苦いそれを何度も舐めて飲み込む。